トヨタ ソフトバンク 提携で大変革時代の到来を予期させる自動車業界の将来

平成時代は国境を越えて自動車メーカーの合従連衡が進んだ時代であった。一息ついたと思われた令和初頭、またもビッグな連携話が浮上した。世界のメーカーたちはこれからどこへ行こうとしているのだろうか?

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◆誕生しかかった世界一の自動車グループ

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平成前半の1990年代に「400万台クラブ」という言葉が生まれた。意味は年間に400万台生産できないような自動車グループは将来生き残れないというもの。今となってはこの言葉が正しかったのかは疑わしいところがある。2018年に約334万台を生産したスズキは、今も元気に存在しているからだ。

日産は1990年代に経営危機に瀕し、2兆円を超える有利子負債を抱えていた。そこで1999年にルノーと提携、カルロス・ゴーンが最高経営責任者となり「日産リバイバルプラン」を断行した。まさに痛みを伴う改革で日産の業績はV字回復を果たした。

一方、クライスラーは1998年にダイムラー・ベンツと合併して「ダイムラー・クライスラー」を結成。2000年には三菱ととも提携関係を結んだ。だが、三菱とはわずか5年で提携を解消。ダイムラーは2007年にはクライスラーも売却してしまう。結局、ダイムラーに日米が引っかき回された結果となったのだ。

経営破綻したクライスラーに手をさしのべたのが、イタリアのフィアットで、2014年にフィアット・クライスラー(FCA)が誕生した。さらに三菱は軽自動車で日産と共同開発を行っていたが、2016年正式にルノー日産アライアンスに加わる。3社合計で年間生産台数は1000万台を超えるもので、巨大グループが誕生したのだった。

日本で新元号の令和となった5月の下旬。飛び込んできたのがFCAとルノーが提携するのか?というニュース。もし実現すれば年間で1500万台という超巨大自動車グループの誕生となっていた。もちろん世界でもダントツだが、わずか2週間足らずでFCA側から「しない」ということになり、すぐに終了してしまった。ビッグニュースは空砲に終わったのだ。

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◆その騒動の背景にあるもの

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そもそも、FCAはなぜルノーに提携を持ちかけ始めたのか?そのカギは電動化にあるという。オランダでは2025年からEVのみを販売するとしており、フランスでも2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止するとしている。世界的にEV時代の到来は避けられない状況なのだ。そこでルノーと提携をしてEV車の共同開発を、と考えたのかもしれない。ルノーには提携先にEV販売世界一のリーフを持つ日産がある。さらにはこれまたEVに力を入れてきた三菱もある。日産&三菱の技術のために、まずは同じ欧州のルノーとの提携に触手を伸ばしたのだ。

EVはガソリン車やディーゼル車に比べてパーツ点数が大幅に少ない。ゆえにモーターやバッテリー、その他パーツの共有化、汎用化できれば大きくコストを下げることができる可能性がある。FCAとルノー・日産・三菱で1500万台ベースとなれば、共有化&汎用化のメリットは計り知れない。しかも日産&三菱が持つEVに関するノウハウは世界トップクラス。もしルノーと日産の提携関係がもっと緩かったら、FCAは日産に直接声をかけていたのかもしれない。だがここで首を突っ込んできたのがフランス政府だ。なんとか有利な取引にすべく食い下がった結果、FCAがそっぽを向いたというかたちになってしまった。

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◆フランス政府 口を出しすぎたか

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今回の一連の騒動、どうもお国柄が要因のようで、フランスという国はヨーロッパの中では社会主義傾向が強いとされている。完全民営化されたはずのルノーだが、今だに筆頭株主はフランス政府。航空会社のエールフランスもルノー同様にフランス政府が株を保有しており、経営に参画している。フランス政府は口を出したがりなのである。FCAとの交渉でもフランス政府が無茶な要求を繰り返し、FCA側がサジを投げたというのが真相のようだ。

同じ事はルノーと日産にも言える。日産だったルノーと提携解消はしたいと思っていない。ただ、もう少し持ち株率を下げて、少しでも対等な関係になりたいというものだろう。一番販売台数が多い日産故、その主張は当然かもしれないが、でもフランス政府が首を縦に振らない。ただFCAとルノーの提携話は自動車業界再編はまだ道半ばの表れと言える。今後もびっくりするような提携話がでてくる可能性もあるだろう。

◆異業種間も提携増加傾向に

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自動車メーカーの合従連衡は、かつてはその規模が主な理由というか、後ろ盾であった。「400万台クラブ」のように、将来的な不測の事態に備えて何があっても対応できる体力をキープしておくということだ。だが最近になって提携話は理由が変わってきている。その理由とは、簡単にいうと「予測できない未来」ということ。

ガソリンを用いる内燃機関は本当に終焉するのか。脱石油が進むのは間違いないのだろうか。電気自動車時代が到来するのか、またまた水素を用いた燃料電池自動車時代が到来するのは、これは誰も分からない。EV時代はすくそこまで来ているように思える。だが本当にそうなのだろうか?現状のEVでは航続距離はガソリン車とは比較にならないくらい短く、急速充電しても30分以上かかり、しかも80%しか充電できない。ガソリン車と同等の利便性は望めない。

ただし、光明もある。全固体電池がそれで、現在世界中が開発にしのぎを削っている新技術である全個体電池が実用化されれば、充電時間や容量、サイズといった現在の弱点を解決できる。ただし、2020年代中に実用化できるかどうか、というレベルではある。では、燃料電池自動車はどうかというと、ガソリンの代わりに水素を充填するが、充填時間は3分程度とガソリン車と変わらない。航続距離も長い。使い勝手ではガソリン車に遜色ないレベルに達している。しかも排ガスはゼロ。

問題もある。水素の生産方法がエコではないということ。さらにガソリンスタンドに代えて水素ステーションが必要になるということ。そのインフラ整備には莫大なコストがかかるのは確実なのだ。EVか、燃料電池か、あるいはそのどちらでもない「なにか」か。何が次世代の覇権を握るのかまでわからないが、ゆえに様々なメーカーがタッグを組んで、何がきても乗り越えられるようにしているのだ。これが最近の提携関係のカギなのだ。

さらに増えそうなのが、異業種との提携だろう。2018年トヨタがソフトバンクと提携したのもその一例で、自動運転システムの開発や海外で盛り上がる「ライドシェア」への対応などがそれだ。自動車メーカーはクルマをつくって売るだけでは成り立たなくなる可能性がでてくる。その他のサービスを包括する新しいビジネスモデルに備え、IT企業やベンチャーとの提携が進んでくる時代になるだろう。

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